もしこの椅子に日本の美学があるとすれば、それは私がこれまで日本で見た事や物全ての結果であると言えるだろう。われわれがデザインする物は全てわれわれが見てきたものに影響を受ける。つまり、私がデザインする物はその中に日本が含まれている。特に私が最近日本で見たものである。
黒川氏の「8 manifestations of the Japanese aesthetic」は私の興味をかきたて、オブジェの美という命題に対して日本で与えられた思想の複雑さに目を開かせてくれた。西欧に属するわれわれは、こうした事柄についての知識や思考が乏しく、オブジェを見た場合の議論も第一印象の域を出ない。つまり、「美しい」あるいは「醜い」といった感想がヨーロッパにおける議論の出発、レベル1であり、「とても美しい。この形や素材の組み合せ方が好きだ」という感想はレベル2ということになる。議論がレベル3まで行くことは稀であり、また、そのような高いレベルでオブジェについて語る者は胡散臭い目で見られることになりかねない。日本でも、黒川氏の言う8つの「manifestation」が語られることはあまりないだろうと想像するが、それでも、その存在自体が西欧よりも美学について深い理解があることを示している。
その伝で言えば、この椅子は日本そのものである。なぜなら日本で作られたからである。その理由は、その背後にある思想が日本で発生したものであり、日本の会社と日本人の技術者によって開発されたものであるからだ。それが広島の近くにある古い木の橋による影響を受けたとまでは言えないにしても、その形に至るまでにはさまざまな点で日本の影響があると言っておこう。