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あの場所、このご飯

文・写真=疋田千里

第1回
2016.05.21

台湾食堂で味わう「はじめて」

 台湾のホテルに到着したのは夕方だった。休みを合わせ、夫婦で行く久々の海外旅行。けれど、LCCの機内食は有料オプションのため何も食べていない。名物、夜市への期待が高まる。

 食堂で注文するより、屋台の方が希望するものに当たる確率は高い。目の前のものを指差し、一つ欲しいとジェスチャーで伝えればよい。普段は冷めた目で眺める行列に並び、饅頭を手分けして作る様子を見ながら順番を待った。

 翌日も朝から張り切って街に出た。すぐに、出勤前の人々で賑わう食堂を見つけたが、注文難易度は屋台より上がる。観察しても、たくさん並ぶメニューと出てくる料理が結びつかないからだ。なんとか、あのテーブルに乗っている料理を!と伝え、掌に乗せたコインと札から代金をピックアップしてもらう。面倒な客だ。

 出てきたのは、クレープのような薄い生地で具と卵をくるりと包んだ、長細く柔らかそうな食べもの。甘塩っぱいソースをかける。あとで調べてみると、台湾の朝ごはんの定番、蛋餅だった。もちもちした食感が癖になる。何の予備知識もない「はじめて」を味わえるのはこの一度きり。きっと次からは、お気に入りのこれを探し、味わうことになるのだから。

 台湾が初めての夫は、有名な小籠包の店やフカヒレスープが名物というレストランにも行きたがった。互いに歩み寄り、順番に食べたいものを食べていたのだけれど、最後の夜に喧嘩になった。

 十分満喫しホテルで休みたかった私と、どうしても最後にイカのスープを飲みたい夫は、屋台の前で睨み合った。最初は威勢良く呼び込んできた屋台のおじさんも、不穏な空気は言葉が通じなくともわかる。勝手にすればと私がその場を去ったあと、気の毒そうに夫を見て、いいから早く行けとアイコンタクトで促したらしい。イカのスープより大事なことをおじさんは知っていた。

疋田千里(ひきた・ちさと)

1977年京都府生まれ 現在東京都在住。高校・大学と写真部。カメラマンアシスタントを経て2003年よりフリーランス。クライアントワークスとしてのポートレイトや料理撮影に加え、日常や旅先の光景を写真に残す。

http://www.hikitachisato.com/

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