インテリア家具ショップのリグナが送る、ライフスタイルWEBマガジン

文=木村衣有子  絵・題字=中澤季絵

第5回
2016.09.07

第5回(最終回) 眼鏡も部屋着

 部屋着とは、言葉そのまま、うちにいるときの服。寝間着とはちょっと違う。寝転がるときの服ではない、ような。

 どんな服がふさわしいか、自分がいいと思う条件を挙げてみる。

 うちの洗濯機でてらいなく洗える。

 丈夫である。

 サイズがちょっとゆるくてもいい。きついのはいや。

 着ている本人が心地よく感じられる素材で構成されている。袖に頬ずりすれば、あー気持ちいい感触、と、ほっとできるような。それは、けものみたいな気分なのかもしれない。

 こう書き出してみると、部屋着と外出着との境界線は、存外、ふにゃふにゃと曖昧にも思えた。

 出かけるときに着る服だって、じゃぶじゃぶ洗えないと、食べこぼす、水たまりにはまって泥を跳ね返す、などのイレギュラーな事態に際して、すんごく落ち込むことになる。正直言えば、染みが目立たないようなのがいい。そんな考えから、カーキ色、昔でいう国防色の服は、シャツ、スカート、コートと増え続けるいっぽう。迷彩柄は選ばないことにしている。着てみたい気持ちはもちろんあるが、いったんその結界を破ってしまうと歯止めが利かなそうで。

 色合いについては、部屋着としてだけ着るようなものもある。臆面もない花柄とか、贔屓の野球チームのロゴがでかでかと入っているとか。人目を気にする必要がなければ、自分が楽しめることを第一にしてもいいのだ。楽しめる、とは、似合うかどうかとはまた別の話。

 丈夫な服は、屋外でも、ふと腰掛けたり、なにかに寄りかかったりするとき、ためらいをおぼえなくて済む。

 サイズがきついのも、ボタンが飛んだり縫い目が裂けたりする可能性を考えると恐ろしいし、なにより、好きに動いたり、つい食べ過ぎたりできないのが、つらい。

 つまり私は、出先では、おとなしくしていないし、なにをうっかりしでかすか分からない、と、自分で認めているということだ。昨年末、一緒にお昼ごはんを食べていた7つか8つ年上の女友達が「座右の銘は“自分を信じない”」と言い出したときは、まだその境地には達せないな、と胸中でこっそり安堵していたものだが、なに、辿り着くのは早かった。

 さて、話をうちの中に戻して。私にとって、部屋着は、仕事着でもある。

なぜならば、うちは、仕事場でもあるから。なので、完全にリラックスしきってしまう服装だと駄目なのだ。仕事と仕事の継ぎ目の期間には、目覚めてからずっと寝間着のままでいて、なんやらかんやら片付けていたらお昼になった、なんて日があっても、やっぱり、気を引き締めてやるぜ、という雰囲気を自分で作り出すためには、いったん着替えないといけない。

 とはいえ、パジャマのズボンを、ウエストの紐を解いて脱ぎ、それから、ウエストを紐で締めるタイプの、ゆるいズボンに履き替えていると、この着替えは不毛では、などという考えもよぎるのだが、いや、意義があるのだ、と思い込むことが大切。きゅっと紐を結ぶ。

 そういえば、私にとっては、眼鏡も部屋着のひとつかもしれない。主に、うちの中でかけているから。さて出かけるかね、と、化粧をするときに、コンタクトレンズを入れる。眼鏡をかけて外をうろちょろする範囲は、スーパーマーケットかお弁当屋さんまで。

 初めて眼鏡を作ったのは、本格的に視力が落ちてきた高校生の頃だった。そもそも合っていなかったのか、かけていると頭痛がするので、程なくしてコンタクトレンズに切り替えた。23、4歳の頃、ここで作ってみたい、と憧れる眼鏡屋さんがあって、新調したものだが、喜んでかけて出かけていたら、ある晩、酔っぱらって、なくした。それからしばらく眼鏡空白期間があったのかも、もう、思い出せない。今は、白山眼鏡とzoffと、ふたつ持っている。そんなに似合う気はしない。

木村衣有子(きむら・ゆうこ)

1975年生まれ。文筆家。ミニコミ『のんべえ春秋』編集発行人。著書に『もの食う本』(ちくま文庫)、『銀座ウエストのひみつ』(京阪神エルマガジン社)、『コーヒーゼリーの時間』(産業編集センター)など。『サンデー毎日』にて書評コラム「食べて、飲んで、読む」を連載中。

http://mitake75.petit.cc/

中澤季絵(なかざわ・きえ)

1981年生まれ。イラストレーター。学生時代は植物や微生物について学び、花とやさいのタネの会社で10年間働いた経験をもつ。生きものを慈しむ脇役蒐集人。絵で暮らしをいろどる楽しさを軸に幅広く活動中。

http://kienoe.com/

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